「ハースストーン10周年」開発者インタビュー

「ハースストーン10周年」_見出し

この度「ハースストーン10周年」を記念したグループインタビューが行われ、ハースストーン開発チームのエグゼクティブプロデューサーのNathan Lyons-Smith氏と、ゲームデザイナーのCora Georgiou氏が様々な質問に答えてくれました。


– まず、お二人が実際にどんなことを担当しているか、現在のお仕事内容を教えて下さい。

Nathan:エグゼクティブプロデューサーの私は、ハースストーンの全てのことに関与しています。ユーザーのエンゲージメントやマーケティング、パブリッシング、eスポーツまで、全てのことを管轄しています。

Cora:カードの初期デザインを担当しており、拡張セットに関することがメインの仕事です。

キーワードや仕様などを考えますし、カードそのものもデザインします。拡張セットのカードは4ヶ月前に作り上げ、リリースできるようにファイナルデザインチームに渡しています。

– この10年間ではどのようなお仕事をされてきましたか?

Nathan:10年前はカードゲームが好きなHSの大ファンの一人でした。

ひょんなことからBattlenetの仕事をを始め、5年前からプロダクションデザイナーとしてハースストーンのチームに入り、数年前に現在の担当になりました。

ハースストーンは、ベータから数えると何千時間と遊んでいますよ。

Cora:私は20年くらいカードゲームを遊んでいます。ハースストーンのリリース時には学生で、熱中していました。

その後、eスポーツに興味を持ち、2016年頃からハースストーンのキャスターやMCとして携わるようになり、2019年にファイナルデザインチームに就職してからはずっとカードデザインを行っています。

– Coraさんがeスポーツのキャスターになった経緯も教えて下さい。また、当時のエピソードなどありますか?

Cora:私は幼い頃からカードゲームを遊んでいました。大学では専攻は放送で、ラジオ局への就職を目指していましたが、2016年の冬季選手権でハースストーンのキャスターを募集しており、応募したら受かってしまいました。

RavenSottleはその頃の同僚であり、FrodanKiblerなど、今考えてもすごいメンバーで世界各国を旅しました。

その中でも一番思い出深いエピソードは、キャスターの仕事をし終わった後にホテルに戻って、そこから皆でダンジョン攻略をプレイしたことです。

1日中仕事でハースストーンをした後に、またハースストーンを遊んだというとても楽しい素敵な体験でした。

それから4年経ち、これから何をしようかと考えていたときに当時のディレクターであるAyala氏から話があり、ゲームデザインチームに応募してみたら受かってしまいました。

ハース・ストーンブルー

– 10年間の中で、変えないようにしてきたこと、変えてきたことはなんでしょうか?

Nathan:まず ”変えないようにしてきたこと” から話しましょう。

ハースストーンの開発陣は、私が知っている中で最強のチームです。お互いがリスペクトし合い、支え合っている素晴らしい環境です。

5年前に私がチームに加入したときに、この環境は絶対に守るべきだと考え、過去のリーダーに話を聞きながらチームを維持してきました。ゲームの楽しさと同じように、職場環境の楽しさも重視したのです。

その上で、皆で作りあげたものをプレイヤーの方々に楽しんで貰えるようにしています。

”変えてきたこと” に関しては、より多くの人がこの酒場に入ってきてくれるよう工夫してきたことが挙げられます。

カードのダブり防止やキャッチアップパック、UIの変更、チュートリアルの変更など、戦略的な観点からみても10以上の変更を行っています。

これにより新規プレイヤー参加にとっての敷居は下がっていると思います。面白いゲームなので、できるだけ多くの人にプレイして欲しいと思っていますし、よりプレイヤー体験を向上できるように努力しています。

– お二人とも元々カードゲーマーとのことですが、他のタイトルからは影響を受けましたか?

Cora:最も影響を受けたのは、ハースストーンと同じWoW(World of Warcraft)の世界を舞台にしたWoW TCG(World of Warcraft Trading Card Game)です。ハースストーンの初期カードもWoW TCGに使われたアートを使っているものがあります。

業界内には沢山のカードゲームがありますが、ハースストーンの良さを出すため、Blizzardのコンテンツから活用できるものを探したり、ゲームを改良して常に最新のハースストーンがユーザーにとって最高の体験になるように心がけています。

– お二人が最も好きな拡張セットを教えて下さい

Nathan:「ゴブリン VS ノーム」ですね。沢山のメカが登場し、私は初期のメックメイジを楽しみました。

スノーチャガーゴブリンのブラストメイジを使ったデッキです。その頃の私はランク2(現在のダイヤ2相当)に到達するのが精一杯でしたが、メックメイジを使ってレジェンドに到達できたので、とても嬉しかったです。

ゴブリンVSノーム

Cora:1つに絞れないので2つ挙げさせてください。

1つは「妖の森ウィッチウッド」です。悪名高い月を食らうものバクゲン・グレイメインが登場したセットですが、当時のインパクトが凄かったのです。中でも私は魔女ハガサが好きで、ゲームの世界観と非常にマッチしてたのが好きでした。

もう1つは「コボルトと秘宝の迷宮」で、肉食キューブのコンボが好きでしたし、ダンジョンも楽しんでプレイしていました。

 
月を食らうものバク | Baku the Mooneater ゲン・グレイメイン | Genn Greymane

– ハースストーンが10年続いた理由はどこにあると思いますか?

Cora:私は幼い頃からカードゲームを遊んでいましたが、当時は対戦相手が弟だけだったのです。

しかし、大学でハースストーンに出会い、 ”いつでも対戦相手がいる” という環境に興奮しました。カードショップにいかなくても、いつでも誰かと対戦できるのは素晴らしいことです。当時はとても衝撃でした。

それが基礎となり、この10年間プレイヤーの楽しさを追求するという基本的な行動を続けています。きまぐれなファンタジーかつ親しみやすく、鮮やかなデザインなど、ずっと遊んでいたくなるようなゲームにしています。

Nathan:とても楽しいゲームですし、新プレイヤーが参入しやすいゲームにしてきた点も活きていると思います。これまで遊んでくれているプレイヤーに感謝しています。

– リリース当初に比べると、1枚1枚のパワーが上がり、ゲームの決着は早くなっているように感じます。これにはどのような狙いがありますか?

Cora:拡張ごとに有意義にメタが変わっていくことが重要だと思っています。

拡張によって、ゆったりとしたメタだったり、コンボメタだったり、展開が早いメタだったりなど、異なるゲーム体験ができるよう目的を持っています。

個人的には全てのカードが何かしらの意味を持つようにしています。

中立のコモンのカードでも何かしらその拡張のアクセントとなったり、イラストやフレーバーテキストが特徴的だったり、何かしらの意味を持たせたいと思っています。

もちろんそれらが色々なデッキに対応し、各々のプレイヤーが自分のデッキをいつでも楽しめるようにも心がけています。

– 10年間の中で最も成功したことと、最も失敗したことを教えて下さい

Nathan:最大の成功は2018-2019のバトルグラウンドです。

最初のバトルグラウンドのコンセプトは史上最大の酒場の喧嘩でした。当時の開発メンバーにもオートバトラー愛好家がいたので、チームは皆興奮していました。

1人のプレイヤーと7人のCPUで戦うところからプロトタイプは始まり、BlizzConに間に合わせるよう10月リリースを目標に開発していましたが、開発陣からの要望でメンバーを増員するなど大忙しでした。

いまやバトルグラウンドは沢山のファンを抱えており、初期の開発メンバーは素晴らしい仕事を成し遂げました。バトルグラウンドの開発チームを誇らしく思っています。

最大の失敗は、報酬レーンに移行した時の出来事です。

昔は3勝すると10ゴールド貰えるという報酬の仕組みがあり、もっと多くの報酬を与えたいと思って報酬システムを改革したのですが、チームから情報をうまく発信できず、実装当初は炎上してしまいました。

今は明らかに以前よりも多くの報酬を受け取れますし、プレイヤーもそれを理解してくれています。それからは、このような変化を起こす際にしっかりと情報を伝えることを意識しています。

報酬レーン

Cora:ありがたいことに、カードデザインでの失敗はほとんどプレイヤーの皆さんの目に届きません。

新カードのデザインは1年ほど前から始まっており、ほとんどの失敗例はボツになります。ただ、そのような中からでも将来的に使えるアイデアはないかとも考えています。

レナサル太子はその一例です。ハースストーン史上、最も好き嫌いが分かれているカードかもしれませんね(笑)

当初は「荒ぶる大地の強者たち」の時のミニセットに入れようとしたのですが、デザインが上手くいかずお蔵入りになりましたが、調整して1年以上後の「ナスリア城殺人事件」でリリースすると、大きな反響を呼びました。

ハースストーンは、新しいものを取り入れつつ、過去の失敗からも学びを得ながら開発を進めているゲームです。

– バトルグラウンドは現在も好調ですが、マーセナリーズはアップデートが停止してしまいました。これについてどう考えていますか?また、今後も大型モードの追加可能性はあるのでしょうか?

Nathan:ゲームを何年も続いていくうえで重要なのは、新しい体験を模索することです。

ハースストーンでは、ダンジョン攻略、バトルグラウンド、マーセナリーズ、デュエルなど沢山のことを試して、いつもプレイヤーの皆さんに驚きと喜びを与えられるように意識してきました。

その中には多くのプレイヤーに受け入れられないものもありましがた、このような挑戦し続けることが重要だと考えています。

現段階では構築とバトルグラウンドをメインに頑張っていきますが、いつか新しいゲームモードが生まれるとき、そのプレイテストを楽しみにしています。

マーセナリーズ 酒場

– 10年間で印象深いエピソードを教えて下さい

Cora:開発陣の仲が良いという話をしましたが、カードデザインチームは本当に仲が良く、仕事がない日にも食事会をやるくらいの仲良さです。

勤務時間外にカリフォルニア・ピザ・キッチンによく行くのですが、ここがいつの間にか非公式のデザインチームのたまり場になりました。今でも月1くらいで食事会が行われていますね。

また、カードのフレーバーテキストは開発陣全員から募集しており、メンバー全員が応募できるようになっています。その上で、デザイナーチームが一番気に入ったものを選ぶ形式なので、皆そのバカバカしい会議を楽しみにしています。

Nathan:2019年のBlizzConです。Liooonが世界選手権のチャンピオンになった年で、BlizzCon会場内にはリアルな酒場を作りました。本物の酒場でハースストーンをプレイできたことは感慨深かったです。

また、バトルグラウンドの発表があり、そのデモに並ぶ列がどんどん伸び、最終的には100人以上の人が並んでいたのも印象に残っています。それを見たとき、バトルグラウンドは大人気コンテンツになるなと確信しました。

– 今後のハースストーンの目標を教えて下さい

Nathan:「プレイヤーが楽しむ」というのが基本的な目標です。プレイヤーの皆さんが楽しんで頂けるような環境を作るのが一番の目標で、これからも様々なカードやキーワードの入った拡張セットをリリースし、プレイヤーのみなさんが継続して楽しんで頂けるようにします。

– 終わりのメッセージ

Nathan:感慨深く、そして楽しいインタビューでした。今日のインタビューを通じて、この10年がとても有意義だったと思い返しました。楽しいインタビューをありがとうございました。

Cora:素晴らしいインタビューをありがとうございました。この10年を振り返ると、やはりハースストーンのことが思い出されます。このゲームを通じて出会えた皆さんに感謝しています。