「タイムウェイの旅人たち」開発者インタビュー

新拡張「タイムウェイの旅人たち」について、開発者への書面インタビューを行いました。

インタビューに答えてくれたのは、ゲームデザイナーのEdward Goodwin(Gallon)氏とUI/UXデザイナーの Sola Chang 氏の2人です。

「タイムウェイの旅人たち」の開発話やバランス調整の考え、日本コミュニティへのメッセージなどを伺いました。

※このインタビューは、新拡張リリース前に書面で質問事項を投げかけ、リリース後に回答をいただくという形式で行われました。

新拡張「タイムウェイの旅人たち」の詳細は、こちらの特集記事をご覧ください。


「タイムウェイの旅人たち」のストーリーを教えて下さい

Edward:「タイムウェイの旅人たち」はハースストーン史上でも最も大きな危機を描いた拡張セットの一つです。

無限竜族のリーダームロゾンドは、すべてのタイムラインを一つにまとめ、自分が全ての時の支配者になることを目論んでいます。私たちはブロンズドラゴン族の一員として、その大災害を阻止しようと必死です。

そのために使うのが『時の砂』という強力なアーティファクトで、これはブロンズドラゴン族が所有しています。
ムロゾンドもこの力を奪おうとしています。この道具の力で、過去・現在・未来、あるいは異なるタイムラインを行き来し、最強のヒーローたちを集めて立ち向かうのです。なぜなら、これは私たちの宇宙だけでなく、全ての宇宙を脅かす危機だからです。

このような背景から物語が始まり、例えばシルヴァナスがリッチキングにバンシーにされる前の姿や、何千年も未来で聖なる光の存在となったゲルビン・メカトルクなど、様々な時代のキャラクターを仲間にしていきます。」

Sola:この拡張のストーリーや幻想的な要素は、新しいUIにもたくさん反映されています。
この後の質問で、どうUIデザインに物語が組み込まれているかもお話しできるのが楽しみです。

Hearthstone

「列伝」の開発コンセプト・狙いを教えて下さい。

 
血の戦士ロゴッシュ Logosh Blood Fighter血の戦士ヴァリーラ血の戦士ブロール

Edward:タイムトラベルの拡張セットを作るにあたり、まず必要だったのは“非常に大きな危機感”でした。みなさんに納得してもらうためにはそれが重要だと思いました。

「タイムトラベル」というテーマは以前からやりたかったのですが、適切なタイミングがありませんでした。そして、タイムトラベルを扱うほどの高い危機感があるなら、象徴的なキャラクターも必要ですし、タイムトラベルをやるなら、ただの奇抜な瞬間ではなく、ウォークラフトの歴史の中でも特にクールな場面を描かなければなりません。

「列伝」はその自然な流れで生まれました。ウォークラフトの歴史上の様々なキャラクターの物語を語りたかったのです。

シルヴァナスやブロキシガーなどは早い段階で決まりました。通常の拡張セットでは使いにくい、ウォークラフト世界では死亡しているキャラクターも、タイムトラベルなら登場させられます。そこから「彼らを招聘するなら、この時間軸には他にもレジェンダリー級にクールなキャラクターも沢山いるじゃないか」ということ事で、通常のハースストーンの拡張に入れられるレジェンダリーの数を超えてしまいました。

それから、どうやってもっと多くのレジェンダリーを拡張セットに詰め込むかをチームで考えました。

「列伝」は初期デザインチームの素晴らしいアイデアで、コンセプトを考えている時から

  • 象徴的なキャラクターの物語を語れる
  • ハースストーンでは普通では見ない「列伝」カード同士の相互作用で新しいゲームプレイが生まれる
    • 例えばシルヴァナスは姉妹と一緒に使うと強くなる(姉妹も同様に強くなる)
  • プレイヤーへのご褒美として「3枚のレジェンダリーを1枚のカードにまとめる」

といったことが実現できました。

Sola:「列伝」カードの目的は、Edwardが言ったように、個別ではつなげにくかった複数のカードを一つにまとめることです。これにより、カード同士のつながりを強くできました。

例えば、ガローナは、他のキャラクターを相手のデッキから探し出すというミニゲーム的な要素もあります。このように、「列伝」カードには追加で楽しめる要素が備わっています。

 
ガローナ・ハーフオーケン Garona Halforcenレイン王 King Liane王殺しの双剣


また、コレクション画面のデッキ編成画面でも「3人1体」にするデザインを追加しています。デッキ編成中に「列伝」カードをデッキにドラッグすると普通なら1枚しか見えないのですが、下に他のカードを見せる事により3枚のカードが束になっていることが視覚的に分かるアニメーションを追加しました。これにより、デッキに追加する時に3枚のカードが1つのトレイに入り、どのようにまとまっているかも視覚的に見えます。

さらに、「列伝」カードをプレビューするときは、関連カードとまとまったカードの一覧の表示を切り替えられるようにし、使いやすさも向上させました。「列伝」に関してはすべての作業が大好きでした。

Hearthstone

「時間泥棒ラファーム」だけ特別なレジェンドになっていますが、なぜラファームを選びましたか?どのようなコンセプトですか?

 
時間泥棒ラファーム Timethief Rafaam

Edward:このセットでムロゾンドを倒すために集める象徴的なキャラクターは全員がヒーローというわけではありません。
中にはアンチヒーローやヴィランもいます。

ラファームはまさにヴィランです。彼はどの宇宙でも最強の秘宝を欲しがる強欲な人物です。ムロゾンドは彼を脅かす存在なので「今回だけ特別にヒーロー側と手を組んで、その後はいつもの卑劣なヴィランに戻ればいいさ」と思っています。

ラファームを選んだ理由は、彼のキャラクターが“やりすぎ”や“突飛さ”を体現しているからです。タイムトラベル拡張セットの目標の一つは、キャラクターを奇抜にしすぎないことでした。彼らの物語を紡ぐ際、全員が全員「ウォークラフトでは絶対にありえない突飛した所を見て」にしたくありません。むしろその逆で、彼らに義理を立てなければなりません。ウォークラフト風味をかもしだし、キャラクターの本質を変えず、むしろウォークラフトの世界観を大切にし、キャラクターの本質を称賛することが目的です。

シルヴァナスは元々の性格に忠実になりました。ラファームが例外でしょう。ハースストーンの歴史の中でもラファームは常に突飛かつ大胆不敵なキャラです。そして様々なラファームが集まっても、各自独特な悪どさを持っている。それがキャラクターとしてのラファームの中枢にあると思います。なので今回も彼を作り直したと言うよりかは彼らしさを称賛する形になりました。なので、彼が爆発的に奇妙で面白いキャラクターになったのは自然の流れだと思います。

Sola:時間泥棒ラファームは「列伝+」カードで、デッキに加えると更に9種類のラファームが追加されます。
それぞれに細かい違いが見える楽しさがあり、私が個人的に好きなのを挙げると、まずはちいさなラファーム。可愛らしく、イラストも愛らしさ満載です。あと大魔術師ラファームはラファーム以外の全てのミニオンを全てメェェェファムという羊に変えます。そういった遊び心が楽しさと没入感を増長させるので、 デザインチームの工夫が詰まった楽しいカードです。

 
Hearthstone

「巻き戻し」の開発コンセプト・狙いを教えて下さい。

 
ポータルの前衛 Portal Vanguardクロノダガー Chrono Daggers

Sola:UI/UXチームは「タイムウェイの旅人たち」の魔法や幻想的な要素を「巻き戻し」にどう表現するかを楽しく探求しました。

「巻き戻し」は、ランダムな効果が発生するカードをプレイした後にその結果を“巻き戻す”事で違う結果が出る可能性に賭けるか“そのままにする”か選べる新しいキーワードです。タイムウェイを旅する事に結びつけたかったし、時の砂時計など砂に関する魔法もたくさんあります。

ウォークラフトの伝承や時空間の戦いから多くのひらめきを得ました。私のTeamsの背景にも反映されていますし、砂が巻き起こる全ての魔法の触媒だという考えを捉えていると思います。

「巻き戻し」のUIは横向きの砂時計をイメージしていて、左側が「巻き戻し」ボタンです。「巻き戻し」を押すと砂が画面中に散らばり、画面を横切ってたった今起こった効果を巻き戻し、もう一度発動させます。受け入れる事を選ぶとその幻想から抜け出し、砂が散り散りに消えます。目の前にある物を受け入れる事でタイムウェイとの繋がりがなくなってしまったからです。こうしてウォークラフト世界の砂がもつ魔法要素やその幻想感を結びつけたかったのです。

Edward:アート、UI、ゲームプレイの各チームが素晴らしい仕事をしてくれました。

ゲームプレイ目線では、最初にこのキーワードの動作を作ろうと思った時、大きな目的のひとつはタイムトラベルの拡張ならタイムトラベルという幻想的な要素をゲームの物語にうまく落とし込む事でした。

「巻き戻し」はそれを成し遂げていますよね。文字通り“時間を巻き戻し”違う結果を得ようとしている。俯瞰して見てみると、このセットの幻想的な要素は何か?と考えます。「巻き戻し」はタイムトラベルの物語を語るのに素晴らしい役目をしていると思います。

デザイン目線では「実際にプレイヤーが遊んだ時のメタゲームの中ではどう映る?」と考えます。開発チームとしては、ランダム性を称賛しています。 ハースストーンの魅力の一つはランダム性だと思っています。ランダム性にもいくつか種類があり、煮詰めると“入力ランダム”と“出力ランダム”に分かれます。“入力ランダム”は何かランダムな事が起こり、プレイヤーが選択を迫られることです。デッキからランダムにカードを選び、それをもとに選択をする時などです。
“出力ランダム”はカードをプレイした時に色々ランダムな事が起こることです。これの悪名高い例は現在稼働中の劫火のフィラークですね。

最高のキーワードはこの2つの両方を混ぜ合わせたものだと思います。「発見」は色々な意味で“入力ランダム”と“出力ランダム”の両方の要素が詰まっていると思います。「巻き戻し」はそれと同じで“入力ランダム”と“出力ランダム”の両方を組み合わせた例となりました。さまざまな結果を提示しつつ、プレイヤーには“より良い、または完全に違う”結果を追求する選択肢を提供します。

この拡張で個人的に好きなカードは?の項目が後にあるのでここで言いますが、現状よく遊ばれているスタジアムのアナウンサーはとても面白い選択を迫ります。良い結果を取ると相手にも良い結果を与えてしまいます。ちょっとしたジレンマというか、自分がこれを取って相手がこれを取ったら、さて、自分はどうしたもんか?ゲームプレイ視点からはこんな所だと思います。

 
スタジアムのアナウンサー Stadium Announcer
Hearthstone

このセットの開発中に生まれた面白い開発秘話があれば教えて下さい。

Edward:1000個くらいありますが(笑)、どの拡張でも同じくらいあります。

特に初期のワークショップ段階――最初の1・2週間ほど――では、どんな展開にするか考えていて、まだ「ウォークラフトのファンタジー感を称賛する」という柱が固まっていませんでした。『リッチキングを二つ頭のオーガにしてフロストモーンを2本持たせる』など、かなり突飛かつ面白いアイデアも出ていました。

最終的には“やりすぎ”を抑えて、物語を大切にする方向に舵を切りました。ボツになったアイデアの中にはエイプリルフール用のパッチには向いているけど、本編には合わない面白アイデアもたくさんありました。

Sola:個人的な話ですが、自分の好きなカードの話をした時に聞いた事がひとつあります。好きなカードは沢山ありますが、その中にマルク王があります。雄叫びの効果でプレイすると手札を全て捨てて無限のバナナを得るのですが、VFXもとてもかっこよく、面白く、軽快な作りになっています。

 
マルク王 King Maluk


VFXチームはちょうど良い塩梅の軽快さを演出してくれました。そこで早速会話のネタとして使ったら、デザイナーの方が「マルク王(King Maluk)はキング・ムクラ(King Mukla)のアナグラムとして考えついたんだよ」と言ったのです。
それを私は面白く感じましたし、名前がこうして他愛ない会話の中で生まれたり、突発的に素晴らしい名前が浮かんだりする事はとても面白く感じました。

Edward:その話に追記する事があります。Solaさんは知らなかったかもしれませんが、マルク王はキング・ムクラの変妖した姿です。無限竜族はみな名前がブロンズドラゴン族のアナグラムになっているのです。ムロゾンド(Murozond)もノズドルム(Nozdormu)のアナグラムですしね。
「もしランダムなキャラクターが無限ドラゴン族に変妖したら?」という発想から生まれました。

Sola:今日初めて知りました。とてもクールですね。私も今日得るものがありました。ありがとう!

Hearthstone

お気に入りのカードを教えてください。

Edward:現環境で驚かされたカードとしては、開発中には「まあまあかな」とあまり気に留めていなかったスタジアムのアナウンサーが思った以上に楽しいです。

 
スタジアムのアナウンサー Stadium Announcer


両プレイヤーにランダムな武器を与え、自分の武器には+1/+1がつきます。「巻き戻し」もあり、現環境で大きな決断を迫られるのが面白いです。素早くいくつもの行動を起こすのとは違い、1回きりの決断なのですが、このままにするか他の何かを狙うか?と考える事が論理的パズルのようで楽しいです。

開発的には初期デザインチームが作り上げた「列伝」カードが大好きで、あえて1枚選ぶとするならシルヴァナスとその姉妹は素晴らしいパッケージです。

お互いに連携する仕様が素敵であり、ゲームプレイ視点からもとても強力かつ楽しく、シルヴァナスの物語を見事に表現しています。なので、これは10点満点をあげたいと思いますし、初期デザインチームは本当に素晴らしい仕事をしました。

 
レンジャー将軍シルヴァナス Ranger General Sylvanasレンジャー隊長アレリアレンジャー新隊員ヴェリーサ

Sola:私はデスナイトの永遠の収穫者ハスクというカードが好きです。

 
永遠の収穫者ハスク Husk Eternal Reaper


私は視覚から入る人間なので良質なVFXに影響されやすいのです。永遠の収穫者ハスクのVFXはとても素晴らしく、VFXチームは凄い仕事をしました。彼らも時間や砂のテーマを利用したのです。

このカードはヒーローに断末魔を与え、ヒーローを死体の数を体力に変換して復活させます。ハースストーンで初めてヒーローに断末魔を導入したカードです。この効果に用意されたVFXはリーサルダメージを受けた時、ヒーローが爆発し敗北を宣言するアニメーションが途中で止まり、鎖が降りてきてヒーローに繋がります。砂によってそれが結ばれ、通常は再生されるはずの死亡アニメーションが逆再生されるのです。私はそれを見て「すごい…とても没入感がある体験だわ」と思いました。
自分も実装に関わったので、何度も見返してしまいました。見飽きる事はありませんでしたね。それほど素晴らしかったです。

Hearthstone

ラプター年は宇宙船デスナイトやフィラークローグなど複数のデッキが、かつてないほど長期間に渡って活躍していると思います。そして、大きくメタが変わることなく今年最後のセット「タイムウェイの旅人たち」を迎えます。今年リリースした新しいセットやバランス調整はこれまでとは異なる哲学に基づいていますか?

※このインタビューはパッチ 34.0.2 の存在が明らかになる前に質問を投げかけました

Edward:特に違う哲学があるわけではありません。全ての拡張を含めて、何をやるにしても、最大の目標は「プレイヤーが楽しく素晴らしい体験をできるか」です。それが原動力で、そこから全てが派生していきます。

個別のメタで言えば、フィラークローグ…というか全体的に中立カードが現状では少し使われすぎているとの感想に同意しています。特に開発が望む位置と比べますとね。

中立カードは今まで見てきた特定クラスの勝利条件より強力だとは思いませんが、中立なので特定クラスと比べ広範囲で使われてしまいます。「タイムウェイの旅人たち」の目標の一つは中立カードより、クラスごとの勝利条件カードを強くすることであり、その結果はそれなりに見えていると思います。

実際、ドラゴンテンポウォリアーでは血の戦士ロゴッシュはトドメを刺す時にプレイします。ローグでもガローナ・ハーフオーケンの採用率が増えている事が素晴らしいと思います。かなり多くの「列伝」カードが勝利条件になってきています。

今後のバランスパッチでもこの状況を打破すべく、しぶとく居座る中立カードの調整も予定しております。もちろんフィラークもその対象です。(筆者注:これはパッチ 34.0.2 のことを指しています)

各クラスが個性を取り戻し、試合に勝てるようにする事を目指しています。
そして「タイムウェイの旅人たち」はそれを助長するのに最適な立ち位置だと思っています。

※多くのスタンダードカードがバランス調整を受けた パッチ 34.0.2 の内容はこちらからご確認ください。

Hearthstone

– 日本語のハースストーンも10周年を迎えました。日本をどのようなコミュニティとして認識していますか?

Edward:日本でこのような偉業を達成できて本当に嬉しいです。

私は昔から日本のeスポーツコミュニティにはいつも感心しています。世界チャンピオンも2人輩出しており、素晴らしいプレイヤーが多いです。私自身も何人かと競い合ったことがあり、いつも感銘を受けました。

日本のコミュニティは素晴らしく、ずっと一緒にいてくれて本当に感謝していますし、この節目を一緒に祝えることに心が踊ります。

Sola:同じく、10周年おめでとうございます。素晴らしい事なので、皆さんと一緒に祝える事をとても嬉しく思っています。

チーム全体も日本のコミュニティと10年間一緒に歩んでこられたことをとても喜んでいます。凄い結果を残してきたコミュニティですよね。情熱的なプレイヤーや素晴らしいコンテンツがたくさんあり、心から感謝しています。改めて10周年おめでとうございます。

Hearthstone

日本のコミュニティにメッセージをお願いします。

Edward:改めて、この10年間、私たちと一緒に歩んでくれて本当にありがとうございます。一緒にこの旅路につき、 ゲームの成長や皆さんの反応を見るのがとても楽しかったです。今までの10年に感謝するとともに、 これからの10年も楽しみにしています。

Sola:Edwardが言ったように、10年間一緒に楽しんでくれて本当にありがとうございます。これからの10年も楽しみにしていただきたいです。「タイムウェイの旅人たち」やこれからの新しいコンテンツもぜひ楽しんでください!